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【連載】芳田賢明「memorygram」第16回

title_yo

そのクリエイティブにひれ伏す。

みなさんこんにちは。
イメージングディレクター/フォトグラファーの芳田賢明(よしだ たかあき)です。
ラジオのレギュラー番組だと思っていろいろ書いてみる、連載「memorygram」第16回です。

連載のネタがなくて困っていたのですが、考えてみればそれもそのはず。このところずっと忙しくひたすらアウトプットばかりで、まともにインプットをしていませんでした(忙しいのは非常にありがたいことなのですが!)。
本だけは読んでいたけれど…企業モノのノンフィクションが好きなので、そういうのばかり読んでいました(根っこはサラリーマンなんだろうなと思ったりする)。
そんな中、結構なインパクトで刺さってきたインプットが、日向坂46の「ソンナコトナイヨ」でした。

https://www.youtube.com/watch?v=7njC5lgL61c
このMVを見た最初の数回は、クライマックスで鳥肌が立ち、泣きそうになりました。
この感覚は何なんだろう、と思いましたが、この原稿を書きながら理解していきます。

https://www.hinatazaka46.com/s/official/page/4th_single
MVの後に公開されたジャケットを見て閃いたのは、MVもジャケットも合わせて「そのクリエイティブにひれ伏す」という言葉でした。

アイドルのクリエイティブというのは総合芸術だとかねてから思っているのですが、このリリースはまさにそれを体現していると思うのです。

● ● ●

【歌詞】

まず歌詞がすごいと思いました。
https://utaten.com/lyric/qk20018016
まあ、言わずと知れた秋元康氏の作品ですから、どんな評価も陳腐になってしまうとは思いますが…

歌詞から思い浮かぶのは、「僕」が教室の中で片想いの女の子を遠くから眺めている光景。想いは募るばかりで、好きで好きでたまらない。だけどそれを伝える勇気はない。
そんな日々の中、その女の子は前髪を切りすぎて、ある男子から「奈良美智の絵みたいだ」とからかわれてしまう(アイドルソングに奈良美智を持ち出すのも、極めて秋元氏らしいと思います)。
「僕」は引っ込み思案で目立たないタイプで、「似合ってるのに、かわいいのに」と全力で否定したいけれど、当然それを声にすることはできない。
そんな、教室の中のありふれた光景。そんなふとした出来事が一つの曲になっていることに、ただただ「すごい」、と。

これが、私が「memorygram」に込めている、「日常の一瞬を永遠の記憶にする」というテーマと共鳴して、「そうだよ、こういう写真を撮りたいんだよ」と思うのです。

さらに歌詞を読み込んでいくと、教室の光景を1番では「風」、2番では「光」で描写しています。
教室、廊下、体育館、そして校庭。儚い青春の記憶には、風と光は欠かせないでしょう。これも、私が写真で大切にしていることで、そういう風や光から「音が聞こえる写真」を求めているのです。

そして一番心に刺さったのは、「どこにでもいるようなタイプなら こんなに好きにはならない」「他にいないから君しかダメ」「君だからこんなに好きなんだ」という、「君」への想いを畳み掛けるラストです。
「普通の美人なら好きにはならない。君にしかない魅力があるから、それに惹かれるんだ」…まるで昔の自分を思い出しているようで、今も胸が痛くなります。

YouTubeのコメント欄には「曲中の女の子が本当に好きなのは『奈良美智の絵だ』って言ってきた男の子なんだろうなぁ」という解釈もあり、「そうそう、現実ってそうだよな」と。
女の子的には からかわれたことで意識してしまったり、男の子的には意識しているから思わずからかってしまったり。「僕」としては「からかうなんてひどい男だ。僕だったら傷つけるようなことなんて絶対言わないのに」と思うのですが、それも虚しく、その二人は接近してしまう。
「ああ、昔の自分、そんな感じだったなぁ」なんて。

● ● ●

【曲、アレンジ、振付】

Aメロ〜Bメロは定位が変わるシンセも乗って軽快でかわいい印象があり、振りもキュートな動作が多くなっています。一方サビでは短調になってストリングスが入り、振りは激しく力強い動作になります。
全体的に緩急のある構成で、後半にいくにつれて緊迫した印象に。BPMが意外と速く、それも前半のキュートな印象と後半の緊迫した印象の双方の高揚感を演出しています。

構成としても単純なAメロ→Bメロ→サビではなく、サビの後に来るDメロというのかC2メロというのか、「ちゃんと鏡で自分見てごらん〜」のところがサビの説得力を高めて、全体をまとめています。この部分がこの曲のキモだと思います。
クライマックス〜ラストは、畳み掛ける「君」への想い・速いBPM・ストリングスが駆け抜け、涙を誘います。

アレンジは、耳をすませば聴こえてくる歌うベースラインと、ここぞというとき16分刻みになるスネアが病みつきになります。センターキャンセルすると聞こえるシンセブラスの旋律も素晴らしい。CD発売後にInstrumentalを聴き込むのが楽しみです。

先日横浜アリーナで行われたライブに足を運びましたが、ライブでもかなり盛り上がる曲で、これは日向坂46を代表する曲になると思います。
ちなみに1番と2番の間の「ソンナコトナイヨー!」がアイドル曲らしいポイントですが、ライブではメロディに乗せずに叫ぶ形になっていて、音源とは全く違う印象になります。

(2月18日追記)CDをフラゲして早速Instrumentalを聴きましたが、ちょっと衝撃を受けました。これは傑作と言えるのではないでしょうか。
Aメロ・Bメロで際立つLchのハイハットとアコギ(音源がYouTubeからCDになったことでよく聞こえるようになった)、エレキギターがベースの役割も兼ねるBメロ、Bメロの後半でタンタカタンタカとなるハイハット、サビの歌うストリングス、1番のサビでフライングするストリングスと2番のサビでフライングするエレキギター。落ちサビのピアノソロにはエフェクトが掛かっていたというおまけ付き。そしてラスト前の各パートが一致するパワーコードから、ラストの裏拍と表拍の軽快な切り替え。このグルーヴはぜひ生バンドで聴きたい。
このInstrumentalを聞くだけでも、CDを買う価値があります。一曲聴き終えた後には心なしか心臓の鼓動が高まっているはず。

● ● ●

【MV】

まず激しいカット割りが印象的。速いBPMと相まってよそ見を許さない感じで、0.5倍速で見ても見応えがあります。数シーンをカット繋ぎしただけの冗長なMVが多くてうんざりする昨今ですが、そういったMVを真っ向から否定していると感じます。
それも同じシーンを細かく割るのではなく、原宿、渋谷、表参道、代官山界隈のあらゆる場所で個別に細かく撮って、その土台に横浜の港の集合ダンスシーンを置く構造になっています。

街中のシーンは早朝に撮ったんだと思いますが、よくやったな…と。相当手間がかかっているはずです。
ダンスシーンは徐々に日が暮れて、クライマックスにいくにつれてラジコン撮影の画が出てきて、ラストではドローンの画も混ざってきます。これが歌詞や曲と相まって緊迫感がより高まる効果を生んでいます。

何よりメンバー一人一人がちゃんと見える映像で、集合ダンスシーンでは引きの画も入れ、ダンスのしなやかさ、美しさが際立ちます。

● ● ●

【ジャケット】

初めて曲を聴いたとき「ちょっとおじさんも狙っているかな?」と思ったのですが、ジャケット写真を見て「やっぱり?」と。
ちょっとレトロなスタイリングでありながらも、確実におしゃれ。共通したコンセプトがありながらもタイプ別にテーマ、カラーがあり、それもみんなちゃんと似合っています。

画面内のリボンやバーといったアクセントも秀逸で、これは合成ではなく現場にセットしているのでしょうか? 少なくともスナップではなく、しっかりラフがあって撮影しているでしょう。
いずれにしても写真とスタイリング、そしてデザインが一体となったディレクションで、感心させられます。

そして最後にやられたのが「ソンナコトナイヨ」のロゴデザイン。なんなんでしょうこのいい意味で憎たらしい感じ(笑)。
レトロだけどおしゃれ、一歩間違えるとダサくなるラインをしっかり認識しつつ、スタイリッシュにまとめています。

● ● ●

というわけで、私が何をもって「そのクリエイティブにひれ伏す」と感じたのか、ざーっと書かせていただきましたが、それぞれのプロの妥協のない仕事が伝わってくる、素晴らしいクリエイティブだと思いました。
多忙でインプットが枯渇している中、久々にガツーンと強烈な刺激を受けた、一連のリリースクリエイティブでした。

CD? もちろん全種予約済みです。良いと思ったものにはしっかりお金を出さないと!


【プロフィール】
芳田 賢明
(よしだ たかあき)
イメージングディレクター/フォトグラファー。
「クオリティの高い撮影・RAW現像で、良い写真を楽につくる」をテーマに写真制作ディレクションを行っている。撮影ではポートレートや舞台裏のオフショット撮影を得意とする。
Webサイト…https://atmai.net/
Instagram…https://www.instagram.com/takaaki_yoshida_/


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芳田賢明 著、プロカメラマンに向けた[仕事に即役立つ本]
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https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4870852349/


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