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【連載】大石孝次の「音楽な日常」第82回

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迷走した都市通信を受信

いわゆるインディーズというジャンルの音楽を子どもの頃から聴いていた。
当時のアンダーグラウンドといわれる音楽シーンにおいて、現在のような情報ソースもなく非常に閉鎖された状況の中でその音楽を見たり聞いたりするということが非常に難しい状況があった。

まず情報ソースとして最初に手をつけるとするならば、活動の拠点であるライブハウスが一番近い存在となる。
僕の住んでいた地元横浜にも、アンダーグラウンドのライブを行っているライブハウスが数件あった。
その当時はまだ子どもだったので、そのような場所に出入りするのは憚られてしまった。
しかし興味の方が強く、子ども心にも怖いもの見たさの心境でその現場へと導かれるかのようにたどり着いていく。

その環境は自分にとって想像を超える恐怖の空間でしかなかったが、見た目にも子どもである自分位の客が出入りするようなことはまずなかったはずなので、周りにいた大人たちはからかうかのような目線をくべながらもいつしか可愛がってくれるようになっていた。
そこで自分の知らない音楽、そして情報などを色々と教わることになった。
新しいライブの情報などはかなりスリリングな内容のものもあり、なかなか会場に行くことはできなかったが、その情報を聞くだけでも自分の中のインスピレーションや妄想は広がっていった。

その次に重要なのが、その当時「自主制作盤」といわれたレコードを取り扱っている店だ。
自主制作盤には流通などというものは存在しておらず、レコードを作ったアーティスト本人が取り扱われる店舗に持ち込むというスタイルが当時ではスタンダードだった。

地元横浜で取り扱っている店舗は圧倒的に少なく、しかもまだそういう商品が数多くリリースされていたわけではない。
少ない情報、少ない商品、少ない店舗の中で何度も何度も店に足を運び、まだ小遣いが少なかった頃なので安い金額の商品ですら買う事ができなかった。
それでも足しげく店に何度も通い、同じ商品を飽かず眺めながら、その音楽や活動、ファッション、精神性など、そういったものを想像しながら楽しんでいた。

実際そんな時代からもう40年ほどの時が流れたが、最近その当時の音源の再発CDが発売された。
タイトルは「都市通信」。
このアルバムは曰く付きで、当時一度だけ発売されたが、あまりに少ない枚数が発売されたのみにとどまり、それ以降商品として日の目を見る事はなかった。

当時発売にあたり予約を取っていたのだが、少数枚だけリリースされ一部の店舗とアーティスト、ライブでの手売りのみが行われ、予約した人たちの手元には届かなかったのである。
ある意味曰く付きの伝説アルバムとしても「都市通信」は有名だった。

今回のリリースにあたり、このアルバムを制作した人間から40年越しに謝罪が行われた。
そしてその当時予約してくれたお客さんに対し、今回発売された商品を送ることによって、完結できなかったことを許しを得ながら終わらせることになった。
参加したアーティストも出来る限り探し出し声をかけ、謝罪と対応に対しての説明をしたみたいだが、当然のことながらその対応を咎めるわけではないが、当時の遺恨は消え去ることはできないようだ。
それはやむを得ないことだと思う。

また、40年経ってその当時お金を預けて予約をした人たちに「名乗り出てくれれば商品を送ります」、それしかできないかもしれないが、実際そのシーンから離れてしまった人たちが多いのではないだろうか。
それとも今でも興味を持ち、40年の時を経てこのCDを手にしているのだろうか。
最近は同世代のミュージシャンの訃報なども多く入っている。
実際、自分自身も当時中古で見かけたことのあるこの「都市通信」を、今一度手にすることができるとは思っていなかった。
なので再発が決定した情報が出たとき、それなりの衝撃を覚えた。

やはり今でもその当時から連綿と続くこのシーンを好きな人たちも多く、また未だ現役で活動を続けているミュージシャンも数々いる。
客もアーティストもシーンを支える人たちも、それぞれに年齢を重ねたわけだが、ようやくそのシーンは成熟し一つの文化として形成されることができるようになった。
今回のCD「都市通信」に参加されているミュージシャンも現役で活動を続けている人が多い。

時代は流れ、時は移り、40年という時間が過ぎてはいるが、現在進化したそのシーンは一つの文化として大いなる意味を持つようになった。
現在もそのシーンの人に会うと同世代が多いという事実は否めない。
同じ時間を過ごしただけその人たちと会う事は決して同窓会的な意味ではなく、言い換えれば同じ教室に存在しながら時間が過ぎているような感覚がある。

なんにしても、当時予約をした人たちに一人でも多く「都市通信」が届くことに期待したい。

それでは本日ラストにお送りするにふさわしい1曲をどうぞ。
町田康のグループ「INU」が参加収録されているアルバム「DOKKIRI RECORD」より。
INUで「All The Old Punks」

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