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【連載】大石孝次の「音楽な日常」第15回

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それでは今回は世界中で大ヒットしたAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)の名曲について少しお話ししたいと思います。

AORの代表選手として頭に浮かぶのはまずはボズ・スキャッグスです。
もちろん、AORのアーティストは上げるときりがないですよ。
ピーターセテラやクリストファー・クロス、ネッド・ドヒニー、カーラ・ボノフ…etc.etc.
そして今回のもう一人の主役はボビー・コールドウェル。

ボズとボビー、この2人に共通している素晴らしい曲のお話です。
ボビー・コールドウェルがもともとボズ・スキャッグスに提供した曲「ハート・オブ・マイン」。
88年に発売された「アザー・ロード」の中に収録された曲です。
この曲のメロディーの素晴らしさに世界中のファンが大変感動いたしました。
ボズ・スキャッグスの甘く優しいバリトンボイス、特にサビの伸びのあるボーカルには誰もが賞賛を送りました。

この曲はとてもドラマラスな内容で、1人のフラれ男の心模様について語っております。
当時、このような男のメンタルを歌った曲は多数あるのですが、その中でもこの曲は特に多くの人の心に刺さった名曲なのであります。

翌年89年にボビー・コールドウェルはこの曲をセルフカバーいたします。
作家として提供した曲をセルフカバーするという、しかも近い時代にカバーをするというのはどういった心境だったのか慮られますが、ボズ・スキャッグスが描き出した完成度の高さと、多くのリスナーのリアクションを見てきたボビーの、自分でも歌いたくなるという気持ちはわからなくもありません。

ボビーの透き通ったハイトーンの歌声はこの曲をさらに繊細に表現しています。
更に時代にマッチしたAOR色の強い楽曲としてのインパクトを与えることになります。

日本ではボビー・コールドウェルの「ハート・オブ・マイン」がテレビのCMソングとして使用されました。
この当時、新しいフィーリングのタバコのイメージ戦略を図っていたパーラメントのCMソングになりました。
とてもアダルトでおしゃれな雰囲気。
既成のCMとは雰囲気の違う、大人の優雅な時間や世界観をイメージさせる曲とマッチした素敵な演出になっていました。

時代は奇しくもこの後、バブル期に入ってくるわけなのですが、この時代に合ったイメージ戦略と大人たちの気持ちにうまく滑り込んだボビー・コールドウェルのこのサウンドが、80年代後半から90年代にかけて1つのおしゃれな文化の一端を担うことになりました。

AORというこのジャンルはこの頃にピークを迎えるのですが、ファッションや音楽、ライフスタイルなど様々なものをミックスした文化として、実に上手くクロスオーバーした非常に面白い文化の育ち方をしたのかもしれません。

この曲の歌詞の内容はフラれ男の心情を綴ったものですけれども、とても時代にマッチしたアメリカ的な表現だったと思います。
青春時代の気持ち、そして自分の立ち振る舞いが切なく悲しく、そんな姿を美しくも描き出している…そういうセンチメンタルな時代背景もあったのかもしれません。
80年代風の新しいものがもうすでに古くなり、90年代の大人の新しいあり方、そして思考や時代の変化に合わせた新しい音楽のあり方まで育っていたのかも。

80年代には男性が中性的なメイクをしたりする風潮が、ヨーロッパのアーティストの中で流行った時期があります。
グラムの時代の残像だったのでしょうか、ロック系のアーティストに多くみられました。
アメリカではそういった雰囲気は、逆にハードロックやメタル系アーティストに受け継がれておりました。

一方では、もっとリアルで現実的、且つモダンな表現としての、ライフスタイルとしてのAORが流行っておりました。

日本がバブルに浮かれるその時期に、お洒落で華やかな事に憧れていた人々は見事に踊ってしまう訳ですが、ある意味それは羨ましい時代だったのです。
団塊の世代の次の人たちが、正にこの時代に飲み込まれていた世代になるのですが、彼等は一様にこの時代を今でも愛しているのです。
刹那的な意味ではなく、それはハートも豊かだった証拠なのかもしれませんね。

今回はAOR入門にぴったりな曲からインスパイアしてお話しいたしました。
それではまた次回お会いしましょう。

[ハート・オブ・マインの収録アルバム]
Boz Scaggs / Other Roads (1988年)
Bobby Caldwell / Heart Of Mine (1989年)

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