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【連載】大石孝次の「音楽な日常」第13回

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こんにちは。
スパイシーこと大石でございます。

今回はいつもと一味違うアプローチでお届けしよう思います。

と思ったのも、私が育ってきた時代の音楽の文学性に触れてみたいと思ったからです。

面倒な講釈は後でたっぷりさせてもらうことにして、自分の人生の中で最も大きな影響を受けた作品を、自分の中で表現できるビジュアルとして文字におきかえてみたいと思います。
私が思い描く大好きな曲の世界をお届けします。
ビジュアルと申しましても映像ではありません。こちらのコンセプトである文章で、皆さんのイマジネーションの中にビジュアルを描いていただく作業になります。

先ずは、このようなシチュエイションを読んでみて、どのようにビジュアライズできるのか、捉えられるのか素直に知りたいです。

僕らの青春時代は、こんな風に愛しい瞬間が始まるピュアな青春でした(笑)
物質的には今のように恵まれていない分、一つ一つが大切で愛おしいものでした。

カセットテープを見たことのない世代の方には分からない部分もあるかもしれませんが、興味を持ったら調べてみて下さいね。
でも、実体験してみないと理解できないのかなぁ。
そんなことを思いながら、ショートストーリーを描いている作業は、とても楽しいものになっております。
ちょっと、読んでみてもらえますか。

このお話は、自分の大好きな曲を自分のなりのストーリーにしてみたものです。

『story part.1』

高速道路は強い雨に包まれて、グレーの世界に溶けていた。
ワイパーは高速で雨を叩いているが、それに勝る大雨がフロンドグラスに波打っている。

今では懐かしくなったヨーロッパの小型の4ドアセダンは、豪雨の高速道路の中ではさらに小さな存在になっていた。
時折、水たまりの上を通った瞬間に空転するタイヤのその存在感のなさに、ステアリングホイールを握る手に瞬間力が入る。
雨の道を切り裂くノイズと、ボディ全体で受けている雨と圧力の中でも、車内に流れている音楽は至ってマイペースに静かに流れている。
左ハンドルのステアリングに添えている左腕のその向こうに見えるグレーの世界に、ドライバーの青年はなにがしかの救いを求めるような気持ちでいた。

助手席に静かにたたずんでいる彼女は真っ直ぐに前を見ている。
物珍しいものを見ているかのように真っ直ぐに視線は送られていた。
でも彼女は外の景色を見ているよりも、激しく動いているワイパーが規則的に左右にはね上げる雨粒の行方を眺めていた。

「すごい雨だね」

たまに彼女の口から出てくる言葉に救われた気持ちになっている。
自分からはなかな言葉を紡ぎ出すことが出来ずにいるからだ。

「ほんと、ヤバいよ、この雨は」

出発して高速に乗るとすぐに雨足は激しくなっていた。

「今日はずっと雨なのかな?」
「う〜ん、これだけ降ってるとなぁ…」
「…そっか」

彼女の言葉に何か返さないと

「天気予報って観た?」
「うん」
「なんて言ってた?」
「雨は降るけど、晴れるって言ってたよ」

わりと絶望できるような雨が空から降り続いている

「なら、雨雲が過ぎって行ったら晴れるかもしれないな」
「そうだよね!」

彼女の言葉が少し明るくなった。

ドライブを始めてからずっと雨が降り続けているので、少しでも晴れに向かってくれればいいのだが。
しかし、雨の激しさは変わらぬままだ。

メインの道から別のルートに分岐するジャンクションに差し掛かり、そちらを選択して車は左のルートに入っていく。
しばらく走ると左右には住宅の広がった景色に変わった。

このまま進んでいくと太平洋にぶつかる。
その手前に山側と海側へと別れる分岐がやってくる。

今日のドライブは海を目指すことになっているので、青年は海側のルートを選択した。
自動車専用道路のジョイントになるループを通過して、海側の別の自動車専用道路に合流する。

合流地点の目の前には、なんの予告もなくグレーにグラデーションした海と空が混ざり合った景色が広がった。

「あっ、海だ」

彼女が素直に驚き喜んで言葉にする。
ループを回りながら海沿いの道に合流した。
左手には感情を押し殺したような灰色の海の景色が流れている。

カーオーディオのカセットテープから、J.D.サウザーの「You’re Only Lonely」が流れ出した。
ミディアムに刻んでいくリズムが自分の気持ちを和らげていく。
知らずにステアリングにかけている指でリズムを刻んでいた。

「この曲、お洒落だね。かっこいい」

彼女がこちらの気持ちを見透かしたようにつぶやいた。
何故だかテンポよく返事を言葉にすることが出来ない。
緊張しているというより、特別な今日に雨を降らしてしまった気持ちが…自分のせいではないのに…。

分かっていてもどこか引け目を感じてしまって、それが呪縛のようになってしまって、どうにもやりきれない気持ちに支配されてしまう。

「最近、結構人気あるんだよ。他に入ってるのも結構渋い曲を集めて入れてきたんだよ」

彼女が不意にこちらに顔を向けて。

「今日用に作ってくれたの?」

ちょっぴりからかうようで、それでいてやさしい表情で視線を送ってきた。

今日のドライブ用に編集したこのカセットは、自分的にもかなりハイセンスなチョイスになっている自信作だ。
不用意に一生懸命にした準備をひけらかしてしまって、カッコつけも様にならなくなってしまう。

「そうだよ…」

半ば凍っていた気持ちに反して、血液が急激に頭に上ってしまった。

「…ふ〜ん、そうなんだ」

わざと視線を外しながら囁くようにつぶやいた彼女に、一瞬ドキッとする。
それに気づかれないように、視線を外にずらしながら指で刻むリズムに力を込めた。

運転しにくい激しい雨にはうんざりしているが、激しい雨音が緊張をごまかしてくることに感謝した。

『後編に続く』

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