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【連載】芳田賢明「memorygram」第56回

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テレビでの新しい映像表現に成功した「SIX HACK」

みなさんこんにちは。
イメージングディレクター/フォトグラファーの芳田賢明(よしだ たかあき)です。
ラジオのレギュラー番組だと思っていろいろ書いてみる、連載「memorygram」第56回です。

テレビ東京にて、2023年5月18日から、毎週木曜深夜1時から6回にわたって放送ということで始まった番組、「SIX HACK」。
「偉くなるためのハックをお届けする」という触れ込みで、MCはユースケ・サンタマリアさん、そのほか、国山ハセンさん、松村沙友理さん、樋口恭介さん。
これだけの情報なら、まあ今っぽいというか、ネット動画っぽいというか、そういう感じです。
が、実際のところはとんでもない番組、番組というよりも企画といった方がよいものでした。
これは一つの伝説になりかねないと思い、今回書くことにします。

まだこの番組を見ていない方は、無料で見られるので、先に配信で見てきてもらえたらと思います。
極力ネタバレはさせずに書きますが、まずは4本の動画をご覧になることをお勧めします。

番組は普通に始まります。事前の番組PRや番組表も普通に配信されています。
スタジオでVTRを見ながら進行するのですが、全体的に流れる不穏な雰囲気と、どこかコミカルというか皮肉っぽい風刺のあるVTR。
リテラシーのある人なら、内容をそのまま鵜呑みにはできず、「何かがおかしい」「ネタ番組なのか?」と気づきます。
この時点では、どこかラーメンズ的なお笑いの印象を受け、そういう意味で「地上波でこれ大丈夫か?」と心配になります。
番組の終盤では「脳のブレーキ装置を外す訓練」というパートがあり、ここでネタ番組だと確信が持て、ある意味ホッとさせられる気もします。
しかし番組が終わったと思うと最後に、まるで電波ジャックを受けたかのような、脳に直接働きかけてくるかのような映像が流れてきます。
さっきまでの安心が一転、「これはただのネタ番組ではない、洗脳させられるような何かがあるのではないか」そんな不安に駆られます。
リアルタイムで見た方は、「これが地上波の深夜に流れている」と不気味な恐怖感を抱いたのではないでしょうか。

番組は第3回まで続きますが、突如番組Twitterで第4回(6月8日分)の休止が告げられ、「『地上波でこれ大丈夫か?』の予感が的中」とネットは騒然。
しかも第3回では、コミカル・風刺よりもオカルト的な要素が強くなっていたこともあり、番組そのものが都市伝説化する様相を呈します。
Twitterには、本当にクレームが入って休止になったのではないか、それも含めて演出なのではないか、何かネタバラシの番組があるのではないか、とあらゆる説が飛び交います。
しかし結果は本当に休止、差し替えで放送されたのはダイアンの番組の再放送。「ユースケ」繋がりで何かあるのでは、なんて説も。
局の番組表まで差し替え番組に更新され、TVerや公式YouTubeも非公開になり、沈黙する関係者のSNS。いよいよ「これはマジなのでは?」という声が出始めます。

6月8日分のみが休止で15日は放送されるのではないか、という声も出る中、更新された番組Twitter。
15日も放送は休止するが、第4回を16日夜に配信するという。放送はないが配信があるというのです。

そうして配信されたのが、今のところこの企画の「オチ」になってくる「検証番組(の体裁を取ったドラマ)」。
「SIX HACK」という番組がどうしてこういう内容になったのか、またどうして休止になったのか、それを検証してお詫びするという体裁を持ったドラマであると言っていいでしょう。
ある意味、このドラマが「SIX HACK」の本編で、それまでの番組や騒動は導入部分と捉えていいと思います。少なくとも現時点では。
またこの配信のタイミングで、過去の回の配信も再開されます。

この企画のすごいところは、
1、既存の複数の映像表現を融合させたこと
2、テレビならではのモキュメンタリーの手法を提示したこと
3、テレビ・ネットと現実・虚構を横断したものである
ということでしょう。次元の違う斬新さがあったということです。

1、既存の複数の映像表現を融合させたこと
アホみたいな深夜番組や、コミカルで風刺の効いたネタ番組は普通にあるし、オカルトや陰謀論、都市伝説の番組もある、それをイジった番組もある。
そういうことの嘘を見抜けないことや、嘘が存在するということを問題提起する番組もある。
テレビの裏側を舞台にしたホラー、オカルトのドラマもあるし、ドキュメンタリー映像の体裁でフィクションを構築するモキュメンタリーの番組もある。
「脳に直接働きかけてくるかのような映像」も、90年代の深夜枠ではそう珍しくはなかったですよね。
それぞれ単独の番組であれば、よくある深夜番組にしかならなかったでしょう。
しかし、それらが自然に融合していたというのが「SIX HACK」のすごさです。

2、テレビならではのモキュメンタリーの手法を提示したこと
テレビ番組で何か問題が起きた時、そのお詫びと検証のために特別番組が制作されることがあります。
「SIX HACK」の第4回は、そのフォーマットを利用したモキュメンタリーでした。
検証番組ではしばしば再現ドラマが内包されますが、それを拡張することで一つのドラマ(芝居)としてしまったのです。
このモキュメンタリーが、単発の劇場映画であったらそれは完全なるフィクションとして受け取られたでしょう。
しかし、すでに数回放送された地上波の番組を検証するという体裁のフィクションは、現実と虚構を撹乱させます。
これはテレビだからこそ成立したモキュメンタリーの手法といえるでしょう。
そして、「これが虚構である」と理解できるギリギリの線の見極めも絶妙でした。第4回を地上波でやらなかったのも、その要素の一つかもしれません。

3、テレビ・ネットと現実・虚構を横断したものである
地上波での番組を単にTVerなどで追っかけ配信するだけでなく、メディア特性を考えて活用したこと。
そして、番組の内容のみならず、「行きすぎた内容で休止に追い込まれた」という「事件」を演出し、現実と虚構を撹乱させながら視聴者を作品に巻き込んだこと。
視聴者が作品に感情移入するといった次元を超えて、視聴者を作品の一部にしてしまったのです。
これはもはや、既存のテレビ番組という枠ではなく、現代アートの映像作品といってよい企画でしょう。
テレビ東京の中でも、複数の部門が協力し合わなければ実現できない企画だったはずです。

もちろん、ネットでどういう議論が生まれるのかも、こういうエッセイやコラムが出てくることも織り込み済みでしょう。
その意味では、私も作品の一部になってしまっているということです。
これだからアートって面白いんですよね。

久々に、テレビが元気だった頃を思い出す経験をした気がします。
そしてこの企画が、元気だった当時をリアルタイムで知らない若き社員プロデューサーによって生み出されたことを嬉しく思います。
さらに、このコンプライアンスの時代に、少なからず賭けに出たテレビ東京に賛辞を送りたいと思います。
現実と虚構のギリギリを攻めるエンターテインメント、教養がなくては楽しめない知的なエンターテインメント、深夜ならではの不気味さやアングラさ、カルトさ。
元気だった頃のようなことはできないにしても、今のテレビだからこそできる新しい攻め方を見せてくれたと思います。
また、この企画を連続ドラマとして捉えれば、各話が必ずしも同じストーリー描写の分割でなければならないわけではないという問いかけにもなったと思います。

番組内容の細かい検証や、プロデューサーの過去の仕事との関連も踏まえた考察は、もっと詳しい他の方に譲ります。
今回は、幼少期にテレビの世界を志し、フィールドは違えどメディアの世界で仕事をする一人として、今後のテレビメディアの明るい希望を見た気がした、というお話をさせていただきました。


【プロフィール】
芳田 賢明
(よしだ たかあき)
イメージングディレクター/フォトグラファー。
「クオリティの高い撮影・RAW現像で、良い写真を楽につくる」をテーマに写真制作ディレクションを行っている。撮影ではポートレートや舞台裏のオフショット撮影を得意とする。
Webサイト…https://atmai.net/
Instagram…https://www.instagram.com/takaaki_yoshida_/


dgpc_cover
芳田賢明 著、プロカメラマンに向けた[仕事に即役立つ本]
「誰も教えてくれなかった デジタル時代の写真づくり」
好評発売中

(Amazon)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4870852349/
(honto)
https://honto.jp/netstore/pd-book_29714615.html
(ヨドバシ・ドット・コム)
https://www.yodobashi.com/product/100000009003153309/


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