ライカの話(5)
みなさんこんにちは。
イメージングディレクター/フォトグラファーの芳田賢明(よしだ たかあき)です。
ラジオのレギュラー番組だと思っていろいろ書いてみる、連載「memorygram」第8回です。
2017年8月にM9からM9-Pへのアップグレードを終え、本格的に撮影に投入後、2018年の7月にはM10も購入し、今ではスナップ撮影には絶対に欠かせない存在になっています。
M型ライカは、他のカメラにあるような、「現場では良いと思ったのに、上がりはそれほどでもなかった」とか、「現場ではそうでもなかったけど、上がりは意外と良かった」ということがなく、撮影時に感じたことがそのまま写し取れるカメラです。これは一見当然のことのようですが、なかなかないものです。
また、一眼レフなどの大きなカメラでは得ることのできない、被写体の自然な表情を写し取ることができます。
撮影されることに慣れていない人にとっては、大きなカメラやレンズを向けられれば緊張するのが普通ですし、何をしたらいいのかわからなくなります。
しかしM型ライカは、比較的小ぶりなボディと、コンパクトなレンズ、そしてレトロとも言える風貌で、威圧感どころか親しみさえ与えます。
それを象徴するように、ライカを知らない若い女性を撮影するとき、「かわいいカメラですね」という言葉を多くいただきます。ライカの価格を知っていると「かわいい」という形容はなかなか出てこないと思うのですが、その純粋な印象からくる「かわいい」という言葉が、M型ライカでの写真の良さを物語っているな、と思うのです。
第一印象が「怖い」ではなく「かわいい」というだけで、そこから得られる表情に違いが出ることは明らかです。
他にも、カメラに関心のある方からは「それってフィルムカメラですか?」だとか、ライカを知っている方からは「それ、デジタルのライカですよね?」とか、またライカの愛好家からは「私も使ってます」などと、あらゆる場面で声を掛けていただき、話が弾むのです。
人物の撮影において大切なことは、初対面の被写体とどれだけ短時間で打ち解けることができるか。また、舞台裏のスナップや対談の撮影で大切なことは、現場におけるカメラの存在感をどれだけ無くすことができるか、だと思っています。
その上で、ライカという存在が大いに貢献します。もちろん、画質も申し分ありませんから、安心して撮影に臨むことができるのです。
さらに、レンジファインダーというM型ライカの特性も、スナップの撮りやすさに貢献しています。
レンジファインダーは、一眼レフやミラーレス一眼のファインダーと違い、撮影範囲の外側が肉眼で見えていて、シャッターを切った瞬間にブラックアウトすることがありません。
スナップ撮影ではコンマ数秒後を予測することが重要になりますが、撮影範囲の外側が見えていることによってその予測精度が高まります。
また、シャッターを切った瞬間を肉眼で見られることで、どんな表情を撮影したかを認識しながら撮影することができます。
こういった特性は、撮影の打率を上げることに非常に大きな効果があります。
ここまで話してくると、まるでM型ライカが万能のように思えてくるのですが、中には一眼レフを使った方が良い場面もあります。それは、スタジオでの人物撮影とライブ撮影。
どちらも、瞬間瞬間で正確なピント合わせをしながら、目まぐるしく動く被写体を的確にとらえなければならないため、レンジファインダーでは厳しいものがあります。
さらにライブ撮影では、広角から望遠まであらゆる画角を使う必要があり、レンジファインダーの特性が弱点になってしまいます。
なので私は、無理にすべての撮影を同じカメラで通すのではなく、スナップはM型ライカ、スタジオとライブは一眼レフ、と完全に使い分けています。適材適所、ですね。
そういうわけで、5回にわたってライカの話をしてきましたが、今後は何かトピックがあれば、随時ライカの話をしていきたいと思います。
【プロフィール】
芳田 賢明(よしだ たかあき)
イメージングディレクター/フォトグラファー。
「クオリティの高い撮影・RAW現像で、良い写真を楽につくる」をテーマに写真制作ディレクションを行っている。撮影ではポートレートや舞台裏のオフショット撮影を得意とする。
Webサイト…https://atmai.net/
Instagram…https://www.instagram.com/takaaki_yoshida_/
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