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【連載】芳田賢明「memorygram」第65回

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大人になってから大学で学ぶということ

みなさんこんにちは。
イメージングディレクター/フォトグラファーの芳田賢明(よしだ たかあき)です。
ラジオのレギュラー番組だと思っていろいろ書いてみる、連載「memorygram」第65回です。

ほとんど公にしていなかったのですが、2020年に京都芸術大学の通信教育部 写真コースに入学し、先日卒業しました。
公にしなかったのは、卒業できなかったら嫌だからです(笑)
が、順調に単位を取り、最短の年数で卒業できました。
相当大変だったというか、プライベートゼロ状態の4年間でした。

通信制なので通学ではなく、自分で学び、レポートを出して試験を受け、作品を制作・提出して単位を取っていきます。
月1回くらいのペースで対面授業があり、大学まで行きますが、それ以外は基本的に孤独な闘いです。
進みが遅くても何も言われないし、締切が迫っていても誰も急かしません。
自由ですが、自律ができないと一向に前へ進みません。

大学に入ろうと思ったのは、美術と写真の歴史や、アートとしての写真を学びたかったからです。
商業における写真の仕事を20年以上やってきていますが、アートとしての写真とは全く違うんですよね。
商業の領域や写真の制作技術については自信がありますが、表現となると、それも自分の表現となると何の拠り所もなかった。
特に、仕事でアートの世界の方と話すような場面で、自分の教養のなさを痛感するようになったというのが、入学の大きなきっかけでした。

学びたいことがしっかり学べたし、複数の「点」としてしか認識できていなかったことが、「面」として認識できるようになった。
表現者としても、ひとまずスタートラインには立てたのかな、という感じです。
大学で学ぶのとちょうど同じタイミングで、いろいろなアーティストとご一緒して展覧会をつくる仕事をするようにもなり、学んだことがそのまますぐ役に立つという場面が何度もありました。

最後の一年は専門学校の講師と大学の学生を同時にやることになり、気持ちの切り替えが本当に大変でした。
卒業制作でひたすら自分と自分の作品に向き合い、先生にダメ出しをされながら、一方では学生たちに制作のアドバイスをするというのは、自分自身が引き裂かれるような思いでした。
ですが、この歳になって学生をやったことで、教えられる側の気持ちになれたり、教え方のヒントを得られるという面もあり、それはよかったなと思います。

今月は、講師をやらせていただいている専門学校の卒展にお邪魔して、卒業式に出席させていただきつつ、自分の卒展をやり、自分の卒業式に出ました。
自分は一体何者なのか、自分は何をやっているのか、ふとわからなくなる瞬間がありましたが、おそらく一生に一度の貴重な経験だったと思います。

通信制の大学で学ぶ人々は、まさに老若男女、幅広いです。
いろいろなバックグラウンドを持ち、いろいろな立場で社会と関わりながら、学生になるという選択をした人たちです。
本当にいろいろな人が集っていますが、大人になってから自らの意思とお金で学ぼうと決意したという点では同じ。その信念は強いです。
しかも、あえて芸術大学を選び、自分の作品をつくろうとしている人たちですから、エネルギーに満ちています。
卒展の準備から撤収、そして卒業式まで、同期卒業の方々と長らく同じ時間を過ごしましたが、本当に幸せな時間でした。
そういえばこの感覚は、デザイン系の高校に通っていた日々以来かもしれません。
本来のクリエイティブというのはこういうことなのだろうな、と。

卒業式の会場である大きな講堂に埋め尽くされた椅子には、各科・そして大学院から非常に大勢の卒業生・修了生が座っていました。通信制ですから出席できない人も多いはず、それでもその規模です。
大人になっても、表現をするということ、ものづくりをするということに、これだけの熱さと真剣さを持った人が全国にいる。
それは私にとって大きな勇気となり、希望となりました。

卒業式での挨拶や講話からは、「芸術には平和に導く力がある」という共通意識があったように思いました。
そのうえで、「芸術、表現、クリエイティブを信じたい。信じているからここにいる」そんな想いに溢れているようでした。
私もそう思いますし、芸術学部を卒業したことで堂々とそれを言える資格が得られたのかな、というふうにも感じました。

ある意味でここからがまたスタートです。
日々はもっと面白くできる。日常に埋もれてはいけない。まだまだやれる。


【プロフィール】
芳田 賢明
(よしだ たかあき)
イメージングディレクター/フォトグラファー。
「クオリティの高い撮影・RAW現像で、良い写真を楽につくる」をテーマに写真制作ディレクションを行っている。撮影ではポートレートや舞台裏のオフショット撮影を得意とする。
Webサイト…https://atmai.net/
Instagram…https://www.instagram.com/takaaki_yoshida_/


dgpc_cover
芳田賢明 著、プロカメラマンに向けた[仕事に即役立つ本]
「誰も教えてくれなかった デジタル時代の写真づくり」
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