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【連載】大石孝次の「音楽な日常」第78回

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冬の思い出

中学2年の年末に当時の憧れのオーディオ機器である「ウォークマン2」を買ってもらった。
前にもお話ししましたが、なかなかに贅沢で中学生には身の丈に余るモノでありました。

軽量なヘッドホンを装着して毎日聴いていたお気に入りのアルバムは、RCサクセションの「PLEASE」。
夕暮れの部屋でなぜか電気を点けず壁に寄りかかって、部屋に斜めに差し込んでくる濃いオレンジの夕陽を見ながらPLEASEしていました。

1曲目は「ダーリン・ミシン」
ステレオのヘッドホンから軽快で計算されたRCのスイートなポップサウンドが流れてきます。
チャボの幾重にも重ねたギター、林小の弾むベース、新井田のタイトなドラム、G2のソウルフルな鍵盤、そして清志さんのシャウト。
レコーディングマンとしての経験がようやく一つの形として決定付けられる、名作が産声を上げて脳の中に入り込んで来ました。
「ぼくのお正月の赤いコールテンのズボンが出来上がる」のフレーズに重なるミシンの軽快な音がなんとも心地よいのです。
ダーリンへの贈り物は上等の果樹酒。温かいストーブの部屋でささやかに贅沢な気分でダーリンと飲むのです。
ダーリンはミシンで僕の正月のズボンを作っているのです。
なんて独創的で、なんてホットでセンチメンタルなんでしょうか。
少年スパイシーはお正月前の冬の夕暮れ時に、このドラマの世界をイメージしながらPLEASEを聴いていたのでした。

2曲目は「トランジスタ・ラジオ」、言う事なしに最強。

3曲目は「モーニング・コールをよろしく」
「本物の君のキスで目を覚ませる朝が来るまで電話でがまんするさ」、こんなメッセージが歌になるんです。
画期的です。ストレート過ぎだけどオトコゴコロなんですね。

4曲目「たとえばこんなラヴ・ソング」
ロックテイストに溢れ、生向委のホーンセクションが印象的。

5曲目「DDはCCライダー」
これまたストレートでスピーディー。タンクに750㏄をぶち込みたくなるストリートライディングミュージック。栃木ベイべー♪

6曲目は完璧に持って行かれた「Sweet Soul Music」
清志さんのソウル愛溢れるNo.1ジャパニーズソウルミュージックでしょう。
「シートにしみ込んでるお前の匂い、他の女とは区別がつくさ」カッコいい!

7曲目「ぼくはタオル」
突然の擬態ソング。これを聴いて誰もがタオルに産まれなくて良かったと思ったはず。

8曲目も名曲「ミスター・TVプロデューサー」
「僕の毎日ホントは孤独なんだ友達はテレビだけ」でも本当はいつか彼女と一緒にテレビが観たいんだ。
そんなオイラの夢を叶えてよミスターTV局のプロデューサー!
「オンエアーしてください!見たいのはロックショー!」

9曲目「いい事ばかりはありゃしない」
切ないね。魂の叫びです。
「金が欲しく働いて 眠るだけ」
ここから次の10曲目「あきれて物も言えない」への流れは、「シングル・マン」の哀愁の成長版のようです。
でもやはりこの生活臭がRCのリアルと心情というか身上なんでしょうね。
「いい事ばかり〜」の「坂の途中で立ち止まる」のリアリティがなんとも切ない。
「あきれて〜」はもう怒りの権化。
「シングル・マン」に収録の「やさしさ」に隠された壊れそうな心がそのままに時代を超えて辿り着いちゃったようです。

そんな世間と世界の真ん中で、子どもの頃の日を思い出すんです。絵本の中に入ったように。
それが11曲目「体操しようよ」。
この曲が大好きです。子どもの頃にタイムトリップしてしまいます。
「みんなは野原に腰をおろして髪や薄いシャツを風になびかせていた」
夕暮れ時、キミは木に上っていく僕らを見ていたんだ。
「さようなら またあした さようなら バイバイまたね またあした一緒に」
こんな歌ってありますか?
あるんですよ、ここに。

心は風に吹かれたあの日のまんま。
僕たちは永遠にあの日のあそこに。

アルバムの最後にこの曲が入っております。
少年時代の僕も、この曲を聴いて今数十年の時を超えて感じた気持ちと、変わらない気持ちを感じていました。
音楽が時を超越して同じ感覚を確認させてくれるなんて、他の曲では出来ない事です。

だって、思い出ではなく思い出したとかでなく、あの時に感じていた気持ちと今感じている気持ちが同じなのだから、何一つ別の感覚を感じないのです。
簡単に言うとあの時と今と冬の夕暮れに感じた気持ちはそのまま同じということ。

成長だの進歩だの理屈は関係なく、この気持ちが自分の中で感じられるトップの気持ちなんだという事なのです。
それは時を超えても何一つ変わる事はなかったという、ただそれだけの事です。

そんな風に感性の基礎の一端を担ったアルバムである「PLEASE」は言うまでもなく自分の永遠の名作アルバムなのです。
今回はそんな体験が皆さんに出来るかどうかは分かりませんが、この「PLEASE」の世界をお届けいたします。

RCサクセションのアルバム「PLEASE」をお聴き下さい。

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