生まれ変わる街、時間が止まる写真、古くなる私
みなさんこんにちは。
イメージングディレクター/フォトグラファーの芳田賢明(よしだ たかあき)です。
ラジオのレギュラー番組だと思っていろいろ書いてみる、連載「memorygram」第61回です。
ここ1年ほど、意識的に東京を離れ、都市とは呼ばれない地域に行ってスナップをしています。
そうするといろいろな気づきがあるのですが、その中の一つに、「街も人と同じように老いる」というものがあります。
都心にいるとそのことに気づきませんでした。それは、都心では街が老いる前にその老いを隠すように上塗りされているか、スクラップ&ビルドされているからなんだなと。
いま渋谷では、街全体が作り替えられる勢いでスクラップ&ビルドが進んでいますが、その中でサクラステージという再開発の街が生まれます。
再開発が始まる前、JRの線路際のこのあたりは少しごちゃっとしていて、人通りも急に減るエリアで、ポートレートの撮影には最高のロケーションでした。
大好きな場所で、何度もここで撮影をしました。
ライブハウスもこの辺りにあって、ライブの撮影にもよく行きました。
2018年夏の写真。みやのねりさんです。ここに写っている建物も道ももうありません。いまここにはサクラステージのビルが建っています。
この頃からすでに、駅側には工事のフェンスが立ち始めていました。そろそろこのあたりでは撮影ができなくなる、と残念に思いつつの撮影でした。
2020年秋の写真。線路際の道路も建物も全てなくなり、工事エリアになっています。
なんだか胸にぽっかりと穴が空いたような……と言ったら大袈裟ですが、何か寂しい気持ちでした。
2023年春、この近隣の写真専門学校の非常勤講師を務めることになりました。
大好きで撮影していた場所がなくなった跡を通って、写真の学校に授業をしにいくことになるなんて、縁というのは面白いものです。
学校は再開発エリアにはかかっていませんが、サクラステージはすぐ近所。
毎週1回、工事の進捗を感じながら学校へ行くようになりました。
2023年秋の写真。建物は完成し、新たな道路もできました。
サクラステージの建物は駅前の歩道橋や駅の新たな改札口と連結され、歩行者の通行ルートにもなります。
オープン後は私もそこを通って学校と駅を行き来することになると思います。
現状少し遠回りをしなければならないルートになっているので、通れるようになるのを待ち遠しく思っています。
自分は老いるけれど、街はどんどん生まれ変わる。
「数十年後に○○が完成します」という話も昔であればワクワクできたけれど、徐々に「その頃に生きているかどうか」と思うようになってきます。
写真を含め映像というのは面白いもので、意図しなくても撮ったものは記録になっていきます。
それも、撮っているときにはわからない。時間が経って初めて記録になっていたとわかる。
今撮っている対象がやがて消えてしまうと思って撮っていることなどほとんどありません。
しかし、現実として、撮ったもののほとんどは消えていきます。
デジタル画像自体は経年変化を起こさないので、過去の写真を今見ても、当時のまま鮮明で色鮮やかです。
20年以上前の青春も、その空気のまま閉じ込められています。
写真になると私が古くなる、とはよく言ったものですね。
写真を撮った瞬間から、私と写真の距離が遠ざかっていくようなものです。
まさに、写真というのは生み落としていくようなものなのだなと思います。
あ、Zfまだ来てません。ここまで待たされるとだんだんいらない気がしてきます。笑
【プロフィール】
芳田 賢明(よしだ たかあき)
イメージングディレクター/フォトグラファー。
「クオリティの高い撮影・RAW現像で、良い写真を楽につくる」をテーマに写真制作ディレクションを行っている。撮影ではポートレートや舞台裏のオフショット撮影を得意とする。
Webサイト…https://atmai.net/
Instagram…https://www.instagram.com/takaaki_yoshida_/
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