わが心の師である松本隆さんの作詞活動45周年記念のイベントが昨年国際フォーラムで行われました。
あわせてそこで伝説のバンド「はっぴいえんど」が復活ライブをやるとのこと!
それはまさに衝撃的な話であります。
大滝詠一さんがご存命の間の復活を誰しもが望んでいた訳ですが、ご存命中には絶対叶わない夢でありました。
生で「はっぴいえんど」を観るのは無論初めてですが、細野晴臣さん曰く「おじいさんのはっぴいえんどです」との一言に会場は笑いが広がりました。
3人となった「はっぴいえんど」はジョンを失ったビートルズのようでもありましたが、観ることは叶わないと思っていたセッションを間近に出来て感無量でありました。
いち早くこのイベント開催の情報を教えてくれたのは、20年来の付き合いのエンジニアである先輩です。
現在、自分がプロデュースしているグループも1stレコーディングからずっとお世話になっていて、
メンバー達からも「お父ちゃん」と呼ばれているお父ちゃんっぷりの良い人物であります。
松本隆さんプロデュースのCDブック「シューベルト 冬の旅」が日本語訳版で昨年リリースされました。
そちらのレコーディング・エンジニアを、お父ちゃんが担当いたしました。
これまたビッグなプロジェクトに参加して「まったくもってエンジニア冥利に尽きるね」などと話をいたしました。
松本隆さんの45周年記念ライブは4時間近いビッグイベントで、終演して会場を出るとかなりヘビーな疲れと充足感がありました。
その余韻を楽しむために有楽町のガード下のサラリーマンで賑わう店に身を寄せました。
ビールで乾杯し、お父ちゃんの好きな分厚いハムカツを肴にライブ談義に華を咲かせました。
自分でスタジオを運営していたお父ちゃんですが、付き合いの始まりは昔いた会社の同僚だったのでした。
とはいってもスタジオは会社の中でも専門的な部門であるので、制作部や音響、編集などの作業に関わらないと遠い存在であります。
当時、営業部に所属していたわたしとしては本来縁のない遠い距離にあった部署であります。
そんな中、社内でアウトローを気取って独自路線の活動を展開し、営業部所属にも関わらず制作の仕事を創り出しておりました。
一言でいうと社内の異端児ですね。そうでもしないとやりたい事は出来なかったので、若さと勢いでつい。
そんな活動を通じてお父ちゃんとも関わりだし、様々な事を教わったり相談したりなど関係性が構築された訳です。
一緒に行ったスタジオワークが終わると、ちょいちょい馴染みの飲み屋に繰り出しました。
古いスタイルのお店がお父ちゃんの好みで、そんな店ではよくホッピーで乾杯しておりました。
やたらと乱暴に焼酎が多く注がれているジョッキに、ちょろっとホッピーを垂らしただけの濃い〜奴を飲んでいました。
普段、ホッピーをたのんでもそんなに酔うことはないのですが、お父ちゃんと飲みにいった翌日は何故だか必ずやられました。
そんなに馬鹿飲みした訳ではないのですが、目覚めると決まって頭がおも〜いのです。
気付かないうちに相当乱暴に飲んでいたのでしょうね。
以前、お互いの地元である横浜の中華街にある焼肉店に出向き、早い時間から食べて飲んでいた時に、別のメンバーから連絡が入り、今度はイタリアンの店へ移動して飲み直しとなりました。
そこではワインを大いに飲んで、更にボトルを追加などしてしまった為、翌日は通常より5割増しのやられっぷりでした。
翌日に残るような飲み方はしなくなったつもりなのですが、昔なじみと飲むとやはり昔と同じような飲み方をしているんでしょうね。
互いに等しく年を取っているのですが、以前と変わらない若い頃と同じような気持ちになってしまうのか…
お父ちゃんにその事を連絡すると「いや〜俺もだよ〜」などとその後の記憶がなかった話など聞かされました。
さてさて、10月4日発売になる我がStella☆Beatsの4thシングル「さあ共に!-story of yours-」
こちらのカップリング曲の「Borderline」のレコーディング及びミックス作業を、お父ちゃんにお願いしました。
アイドルのレコーディングはエンジニア泣かせでなかなかに大変な作業になる事が多いのですが、順調に作業は進んでいきました。
ミックス作業、トラックダウン作業は手間と時間がかかり忍耐の作業であります。これは多分、皆さんの想像をはるかに超える大変さなのです。
その分、曲に命を吹き込む作業であるので、苦しい分楽しい作業でもあるのです。
「Borderline」のミックスもやはり大変難航いたしました。何度となく調整や変更を繰り返し試行錯誤の上完成いたしました。
それだけに出来上がった楽曲はかわいいものなのです。
そして最後、出来上がった曲のマスター音源を全て集めて、マスタリングという販売用CDの大元を作る作業が待っています。
マスタリング・スタジオをお父ちゃんに押さえて貰い、さあいよいよ最後の作業というところだったのですが…
何故か連絡がとれません。
マスタリングにも来るはずだったのですが登場しないまま作業は終了しました。
ミックス作業もしたばかり、スタジオ押さえもやってくれたのに…
お父ちゃんは急逝してしまいました。
あっけにとられるとはこういう事か。
最後に連絡を取って2日後くらいに、いきなり逝ってしまったのです。
こんな事もあるのが人の世の常なのでしょうが、やはり、やり場のない気持ちを持て余しております。
楽しい思い出がいっぱいあります。
最後に作業が出来てよかった。飲みに行けてよかった。
あなたに出会えてよかった。
それしか言えないですが、一緒に作った数々の作品を背負ってこれからも進んでいきます。
ちょっと先にそっちで待ってて下さい。
遅れてそちらに合流しますので。
「そんじゃね〜」っと、お父ちゃんの声が今でも聞こえてくるようです。
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